大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)13522号 判決

原告

山本保

ほか一名

被告

渡辺雅治

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告山本保及び同山本けい子に対し、それぞれ金四一九万二一二五円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告渡辺雅治は、原告山本保及び同山本けい子に対し、それぞれ金九万六五四一円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告山本保及び同山本けい子の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この裁判は、第一項、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告渡辺雅治は、原告山本保に対し、金一八二六万一六四〇円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告渡辺雅治は、原告山本けい子に対し、金一八二六万一六四〇円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告渡辺弘は、原告山本保に対し、金一八一〇万〇七三六円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告渡辺弘は、原告山本けい子に対し、金一八一〇万〇七三六円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  仮執行宣言

第二事案の概要

一  争いのない事実

平成四年一〇月三〇日午後九時二〇分ころ、訴外山本浩和(本件事故当時一七歳で、高校二年生。以下「浩和」という。)は、自動二輪車(以下「被害車両」という。)を運転して、東京都三鷹市大沢六丁目二番付近の人見街道(以下「本件道路」という。)上の信号機により交通整理の行われている交差点を、青色信号に従つて、府中方面から三鷹方面に向かつて直進中、折から、被告渡辺雅治(以下「被告雅治」という。)が、被告渡辺弘(以下「被告弘」という。)所有の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転して、対向進行してきて、同交差点を青色信号に従つて野川方面へ右折しようとしたため、被害車両と被告車が衝突し、浩和は、同年一一月一二日、右事故による脳挫傷によつて死亡した。

二  本件の争点

1  被告らの責任原因

原告らは、被告雅治については、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条により、被告弘については、同法三条により、それぞれの損害の賠償を求めたところ、被告らは、本件事故は、前照灯不灯火、前方不注視等という浩和の一方的過失によつて発生したものであり、被告雅治には過失は無いので、同被告は民法七〇九条の不法行為責任は負わず、かつ、被告両名は自動車損害賠償保障法三条ただし書きによつて免責されると主張した。

2  過失相殺

被告らは、仮に、被告雅治に過失が認められ、被告両名が損害賠償責任を負うとしても、本件事故に関しては、浩和において、前照灯不灯火、大幅な速度違反、ヘルメツトの不着装という重大な過失があり、これら斟酌すると、損害額の六割を減じるべきであると主張した。

第三争点に対する判断

一  無過失及び免責の主張について

証拠(乙一ないし三五号証)及び争いのない事実によれば、本件事故現場は、東京都三鷹市大沢六丁目二番付近の都道人見街道(以下「本件道路」という。)上の信号機により交通整理の行われている交差点であり、本件道路は、片側一車線で、幅員は、被害車両が進行していた上り線は三・八メートル、被告車両が進行していた下り線は三・七五メートルの道路であること、本件道路は直線で、本件事故現場から被害車両が進行してきた府中方向の視界を遮るものはなく、見通しはよいこと、本件交差点付近は、被告車から見て、衝突地点の前方約二三・五メートルの地点に信号機があり、道路を隔てた対面には街路灯があり、その付近の照度は七・五ルツクスであり、本件事故現場から被害車両が進行してきた方向は、夜間であつても相当遠方まで、その見通しは良好であつたこと、被告車の進行方向手前の公衆電話という被告車が右折のため停止していた地点よりも被害車両が進行してくる方向に対しては遠距離の地点から本件事故を目撃していた久保光宏ですら、約三〇メートル前方から対向進行してくる被害車両を確認していることの各事実が認められ、これらの事実によれば、被告が前方を注視していれば、対向車線を進行してくる被害車両を十分に発見できたことは明らかであり、被告に前方不注視の過失があつたと認めることができるので、被告雅治は、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条により、被告弘は、同法三条により、それぞれ損害賠償責任を負うことは明かである。

二  過失相殺について

1  証拠(乙六、一三、一九ないし二一、二九号証)及び争いのない事実によれば、右のとおり認定した事故の態様の外、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故直後、現場に臨場した警察官が確認した際、被害車両の前照灯は破損し、灯火スイツチは、ポジシヨンの位置にあつたところ、被害車両と同種の自動二輪車は、灯火スイツチがポジシヨンの位置にあると前照灯は点灯せず、スモールライトだけが点灯すること、被告雅治は、本件事故直前に反対車線を対向進行してくる白色灯を点火した車両を確認しているが、被害車両の前照灯は黄色であり、被告雅治が確認した白色灯は被害車両の前照灯とは認められないこと、目撃者の久保光宏も、被害車が前照灯を点灯していたかについては記憶がないこと、吉崎加代は、事故直前の午後八時一〇分ころから午後九時一八分ころまでの間、事故現場から約二〇〇メートル南方の野川公園入口でオートバイに乗つてきた浩和と話をしていたが、吉崎は、浩和がオートバイに乗つて立ち去つた際、被害車両のテールランプが点灯していたことは確認しているものの、前照灯を点灯していたかについては記憶がないこと、浩和は、吉崎と別れて発進後、ほどなく本件事故に遭つていることの各事実が認められ、これらの各事実を総合すると、浩和は、本件事故当時、スモールライトのみを点灯し、前照灯を点灯していない状態で被害車両を運転していたものと認められる。

(二) 本件事故時の被害車両の速度は、時速約四六キロメートルないし七六キロメートルと推定され、本件道路の制限速度は、四〇キロメートル毎時であるから、浩和は、制限速度を超過した速度で被害車両を運転していたと認められる(なお、久保は被害車両の速度について、乙二九号証では時速六〇ないし八〇キロメートルと思うと証言していることが認められるが、他方、乙二〇号証では、自己が二輪車を運転した経験から、被害車両の速度は、時速五〇ないし六〇キロメートルと思つたと供述している事実も認められ、他に、本件事故時の被害車両の速度を確認できるに足りる証拠がないため、本件事故時に、被害車両が、毎時六〇ないし八〇キロメートルの速度で走行していたとまでは認めることはできない。)

(三) 本件事故直後に、現場付近の日産建設三鷹寮前の横断歩道上に浩和のヘルメツトが放置されていたことが認められ、本件事故の際に、浩和の頭部からヘルメツトがはずれたと推認できるが、本件事故の際、いかなる理由で浩和のヘルメツトが道路上に放置されるに至つたが証拠上明確ではないため、浩和のヘルメツトの着用状況に過失があつたとまでは認めることはできない。

2  以上の事実の外、争いのない事実を総合すれば、本件事故は、片側一車線の都道上の交差点において、直進中の二輪車である被害車両に対し、右折中の四輪車である被告車が衝突した事故であるところ、被告雅治は、右折に際し、対向進行してくる車両の動静に厳に注意し、対向車の進行を妨げないように注意すべき義務があるにもかかわらず、前方を十分に注視せず、漫然と右折を始めた結果、衝突まで全く被害車両に気がつかないまま本件事故を惹起したものであり、本件事故における被告雅治の過失は極めて重大なものと認められる。

他方、浩和にも、いかに街路灯が設置され、視認が可能な都道であつたとしても、夜間に、公道上を、前照灯を点灯せずにスモールライトのみを点灯した状態で、かつ、制限速度を相当程度超過した速度で走行したという重大な落ち度が認められること等を合わせ考えると、本件では、双方の過失の割合は、被告が六、浩和が四と認めるのが相当であるから、原告らの損害額から四割を減額するのが相当である。

第三損害額の算定

一  人損

1  治療費 三二万二七八〇円

浩和は、本件事故で受傷し、事故当日の平成四年一〇月三〇日から死亡する同年一一月一二日まで、東京都立府中病院に一四日間入院し、原告らは、その間病院における治療のため右金額を支出したことが認められる(甲四ないし一一号証、弁論の全趣旨)。

2  入院雑費 一万八二〇〇円

右入院期間中(一四日間)に、一日当り一三〇〇円の入院雑費を要したことが認められる。

3  入院付添費 七万円

右入院期間中付添看護を要し、その間母親の被告山本ひろ子らが付添看護をしたことが認められ、一日五〇〇〇円の割合による損害に相当することが認められる。

4  葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある損害額として、右金額が相当であると認められる。

5  逸失利益 四三六八万二〇七三円

浩和は、昭和五〇年六月一九日生まれで、本件当時満一七歳の高校二年生であつた。浩和は、本件事故に遭わなければ、高校卒業後の一八歳から六七歳に達するまでの四九年間に、賃金センサス平成三年第一巻第一表による新高卒男子平均年間給与額五〇四万八九〇〇円に相当する給料を得ることができたと推認されるので、この額を基礎として、生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式により中間利息を控除して右四九年間(六七歳まで五〇年間のライプニツツ係数一八・二五五九から一年間の同係数〇・九五二三を差し引いた一七・三〇三六)の逸失利益を算出すると四三六八万二〇七三円となる。

(円未満切捨。以下同じ。)。

504万8,900円×0.5×17.3036=4368万2,073円

6  慰謝料 一八〇〇万円

浩和が本件事故当時一七歳の将来ある男子で、両親の期待を一身に背負つていたこと等の事情を考慮すると、慰謝料は右金額が相当である。

7  合計 六三二九万三〇五三円

二  物損額 三二万一八〇七円

被告車両は、本件事故により全損したが、その時価相当額は、購入価格六九万三五五〇円に定率法による原価償却率を乗じた右価格と認められる(甲一二号証)。

69万3,550円×(1-0.536)=32万1,807円

三  相続等

原告両名は、浩和の両親で、相続人であり、浩和の逸失利益、慰謝料及び物損は、原告両名が各二分の一ずつを取得し、治療費関係、葬儀費用の原告らの固有の損害を合わせると、原告らの人損は、いずれも金三一六四万六五二六円、物損は、いずれも一六万〇九〇三円となる。

四  過失相殺

前記のとおり、本件においては右損害合計額の四割を減額するのが相当であるので、原告らの人損は、いずれも金一八九八万七九一五円、物損は九万六五四一円となる。

五  損害てん補 各一五一九万五七九〇円

原告らは、本件事故によつて人損のてん補として、自動車損害賠償責任保険から合計三〇三九万一五八〇円を受領していることが認められるので、原告らは、各一五一九万五七九〇円の人損のてん補を受けていたと認められる。

六  弁護士費用 各四〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告らについて、各四〇万円と認めるのが相当である。

七  合計

以上を合計すれば、人損については、原告各自金四一九万二一二五円、物損については、原告各自金九万六五四一円となるが、原告らの請求は、その主張からも、人身損害については被告らが連帯して支払うことを求めるものであることは明かであり、かつ、証拠上も、人損については被告らが連帯して支払うべきものと認められる。

第四結論

以上のとおり、原告らの請求は、被告ら各自に対し、それぞれ金四一九万二一二五円、及び、被告渡辺雅治に対し、それぞれ金九万六五四一円、並びに、これらに対する本件事故の日である平成四年一〇月三〇日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求については理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九三条、九二条、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 堺充廣)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例